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April 05, 2006

書談:松本清張『影』

↓これに収録されている短編
■『眼の気流 』(新潮文庫)
著者:松本 清張著
価格:\500 (本体 : \476)
出版:新潮文庫
発行:2003.9
bk1

文学青年・宇田は、作品を採用してくれる文学誌がなく、鬱々とした日々を送っている。そこにやってきたのは編集者・江木。以前一度だけ宇田の作品を認めてくれた。しかし、江木が持ってきた仕事は彼への依頼ではなく、時代小説の売れっ子笠間のゴーストライターであった。。病気のためかけなくなった笠間の穴埋めである。純文学志望の宇田は大衆文学に汚れたくないと拒む。江木から一度だけ、しかも、多額の報酬を打診され、しぶしぶ代筆を始める。宇田,江木,笠間それぞれ誰も利益を得、誰も損はしないはずだった。しかし、回を重ねたことによって、転落が始まる。

清張の作品には、文学青年(くずれ)や市井の考古学者なんかがよく登場する。本流にいこうとしていけなかった人たちには私も哀愁を感じる。

宇田は自分と全く文体も理念も違う人間に成り代わって文章を書いていた。そのうち、自分本来の個性に戻れなくなってしまった。それは、なんとなくそういう気がする。

シュレ猫文章クラブで聞いたのだが、プロの作家の中には、自分の書きたいものは全くなく、(編集者が)なんかテーマをくれれば、それについて書く、いうタイプがいるらしい。かなりマイナーな部類の人だと思うが、にわかには信じられない。自分で表現したいものがあるから作家になるんじゃないのか? 不思議であるが、ゴーストライターをもっと「前向き」にやるとそうなるのかもしれない。

現代においては、小説はそれほど大きな力は持っていないし、笠間のように支えなくてはいけない大作家ももはや皆無であろう。笠間がダメでも、他に代替物はいくらでもいるというのが今の文壇だと思う。この設定では、笠間が書くよりも宇田が書いた方が良いというのだから、昔からそうだったのかもしれない。

江木タイプの編集者は、そこいら中にいる感じはするけれど。

TV番組の「世にも奇妙な物語」でもゴーストライターの話が出てくる。

これまた売れない文学青年の母親が交通事故に遭う。その加害者は老年に差しかかった高名な小説家。その青年は事故のことを口外しない代わりに自分の名前で小説を書くように言う。初めは拒んでいた小説家も仕方なく代筆をするようになる。青年は一躍有名作家になる。しかし、それは老年小説家の死とともに終わる。自分で書かざるえなくなった彼の小説は全く売れなくなって忘れ去られてしまう。数年後、ある地方の文学賞授賞式。そこには、彼が立っていた。どん底まで行って、文章修行を重ねた日々を語る。どんな賞よりもこの受賞がうれしいと語る。

どちらもフィクションだが、文学の世界には実際に魔物が住んでいるのだと思う。

* * * * *

清張作品を読んで気になるには

「男も50になると老境にさしかかり、嫉妬や欲などはもうないのかもしれない」
とか

「その女は35,6歳に見え、若いときはかなりきれいだったと思われるが、目の下に弛んだ皺があり、やはり年相応に思えた」
とか

の表現である。今と3,40年前とでは、年齢の感覚が干支一回り以上違うんじゃないかと思う。

まあ、私も幼少のころは、50歳のおじいちゃん、と思っていたけれど。


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