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June 22, 2007

書談:松本清張著『球形の荒野』

Kyoukeikouya■『球形の荒野』
著者 :松本 清張
価格 : \620 (本体 : \590)
出版 : 文芸春秋(文春文庫)
発行 : 2003.7
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素敵な題名なのでいつか読んでみたいと思っていた。題名と同じくらい素敵なお話だった。

芦村節子は夫・亮一の学会出席に付き添い関西が赴く。その合間に一人奈良の唐招提寺を訪ねたとき、その芳名帳に大戦中の外交官だった亡き叔父・野上顕一郎の独特な筆跡を見た。名前は違っていたが、中国のある流派を組む文字体を書く者が、他にいるのだろうか。叔父は生きて日本に来ているのではないか。節子は、その思いを野上未亡人・孝子とその娘久美子にうち明ける。皆取り合わないが、久美子の恋人である新聞記者・添田彰一は、その出来事に興味を持つ。

清張作品に限らずこの時代の推理小説には、新聞記者が良く出てくるなあ、と思った。今のように芸者や旅館の女将、フライトアテンダントが探偵ができない時代(?)だからではなく、民間で一番情報収集力のあったのが新聞社に勤める者だからである。

今の新聞記者は、ソースのはっきりしない内容の怪しげな伝聞を平気で記事にしたり、素人のブログをそのままぱくったり、事実関係を確かめもせず科学的事実と偽って載せたり、権威ある肩書きの人と酒を飲むとインタビューしてきたと勘違いしたり、折角著名な学者と会ってもコミュニケーション技術がないもんだから、別のテレビ番組出演の所見を恰も自分で言質を取ったように書いたり、する人もいますからな。いえ、誰と言わないが。

結末は結構複雑な国際関係がネタとなっている。平成の今ともなれば、さもありなんという気がするが、発表した当時(1960年)はどのような反響があったのだろうか。清張は社会派作家らしく、戦争がテーマとなる小説を多く書いている。『砂の器』でも、先の大戦は重要なアイテムの1つのなっている。

本書はそんな難しい政治がらみのことよりも、あの時代、大黒柱を失った女所帯がどのように生活していたか、そっと教えてくれる。主が外交官だけあって、貧しくはないようだが、だからといって派手ではなく、慎ましく母娘が暮らしている。ときどき、親戚の節子などが来て、亡き主の思い出をひっそりと語らう。平穏だけれども、大きな欠落感を持って生きている。そんな情景が胸に迫ってくる。

顕一郎はさぞかし、妻に会いたかったであろう。しかし、彼の理性が対面することだけはぎりぎりくい止めた。それは彼女を最も不幸にしてしまうことだからだ。そんな思いを胸に父とは知らずに(でも心の奥底では感じていたに違いない)、娘と一緒に歌う「七つの子」はなんともしれない情緒がある。

メインキャストの添田彰一が野上家に入ったとき、顕一郎の欠損が補修されるのかもしれない。

これは、映像化したらものすごくいいだろうと思ったら、やっぱりなってました。
球形の荒野(1975) - goo 映画

清張ファンにはシャーロキアン、みたいな素敵なネーミングができないか、考え中。今日も人気blogランキング・自然科学にぷちっとな。【押す】
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